なんかいいことおまへんか!!

健康で文化的な生活について。つまり、ダイエットと、文学と、映画。

エクストリームは日常と隣り合わせ。『ジ、エクストリーム、スキヤキ』『もらとりあむタマ子』

 早稲田松竹『もらとりあむタマ子』 『ジ、エクストリーム、スキヤキ』の二本立てを見に行った。高田馬場には5年ほど前に2年間住んでいたこともあり、懐かしさも相まって、久しぶりに馬場界隈を散策した。1ヶ月ほど前にイベントで馬場の10℃カフェに行ったのだけど、その時はサクッと飲んでイベントに行ってすぐ帰ってしまったので、その変わり様を見ることが出来なかった。高田馬場もじわじわと変わってしまっていて、成城石井が出来てたり、立派なビルが出来てたり、なんだか見知らぬ街に来てしまったみたいだ。

 以下、映画の感想で、ネタバレ含みます。書評とかだとネタバレ気にせず、ずんずん書いていっちゃうけど、最近覚えた。ネタバレの時は事前の断りを入れるってこと。

 

 

 

 『もらとりあむタマ子』は前田敦子主演で、全くの予備知識も無かったけど(予備知識なんていらんかったんや!)楽しめた。頭からっぽにして楽しめるコメディーってひさしぶりやなーって思った。

 モラトリアムっつーか、共依存的っつーか、父娘ならではの踏み込めない関係っつーか、親父の方こそ、この時を受け入れてたんだなーって。ほんで、それでも時間は過ぎるし、人生は動いていく。それは、中学生の仁くんに象徴されている。彼の第二次性徴期まっただなかで、ぐんぐん成長していくシーンや、中学生なりの恋愛とか、別離とかに描かれていて、リビドーと童貞心がくすぶっている感じが素晴らしかった。中学生なんて大人の女性と喋るのとか、一緒に行動するなんてリビドー直撃でしょ。でも、性の対象は同じ中学生で、タマ子に対しては哀れみと脅されの共存。すかされてて笑う。

 あと、前田敦子の自転車の漕ぎ方がブサイクなのが凄く良かった。いるじゃないですか。自転車の漕ぎ方がブサイクな人。ちゃんと前には進んでいるんだけど、肘を翼みたいに横に突き出したり、そもそも自転車のサイズがあってなかったりして全体がいびつな人。ただ自転車に乗るだけなのに、その姿に絶妙なへんてこさが出てて、ああ、こんな女の人おるわ、ってなるリアリティ。で、このブサイクさ、へんてこさは他にも随所に現れてる。

 それと、冒頭のシーンだと、甲府スポーツ(タマ子の実家)の自販機らへんに貼ってあるポスター、「ピースボート」なんですよね。それが、ラストシーン、夏になると地域の花火大会のポスターに変わってるんですよ。タマ子はついに親父から出て行けって言われて、夏が終わるとどこかへ出て行かなくなっちゃ行けなくて、でもそれがどこかはまだ全然決まってない。ラストシーン、ポスターの花火大会はたしか9月なんですよね。タマ子はもしかしたらその時にはどこかへ行かなきゃいけないかもしれない。ラストシーンの小道具の使い方、良かった。

 

 

 『ジ、エクストリーム、スキヤキ』はもう、ARATA窪塚洋介が主演を張るっていうだけで、見る価値があります。超名作『ピンポン』の主演の二人ですからね。あれから11年、高校大学社会人としんどい場面に喝を入れるためことごとく再生し続けたDVDは家宝です。

 ほんで、ARATA演じる洞口は冒頭、自殺未遂するんですよね。陸橋からの飛び降り自殺。これは、画面上は大型トラックが道路を通過する間に飛び降りてて、その様は省略されるんですけど。

 ペコは飛び降りてヒーローになったけど、スマイルは飛び降りて、でも自殺出来なかった、キャプテン荒川良々は飛び降りたら泳げなくてI cannot swimmingって叫びながら川を流れて行く。

 『ジ、エクストリーム、スキヤキ』は冒頭から死の匂いに満ちあふれてて、でもその死の匂いをみんな軽やかに跳躍していく。洞口は自殺未遂後、窪塚演じる大川の家を突然訪ねてくるし、この二人と市川実日子演じる京子は、大学時代の友人の自殺を切っ掛けにして疎遠、絶縁状態。京子は会社の部長が死んじゃうし、大川の同棲相手、楓(倉科カナ)はもうすぐ死んでしまうけど、その病状は深くは語られない。

 そもそも、洞口にとって究極にエクストリームな体験は自殺未遂だ。でも洞口はその体験を隠蔽する。大川は映画を撮りたい。ジャングルに行ってドキュメンタリーを撮りたい、っていうエクストリームな夢を持っているけど、それを声を大にして言っちゃうのは、なんだかんだ言って恥ずかしい。

 この4人の特別な旅行の中では、死は積極的に語られない。みんな、それぞれに死の匂いをまとっているのに。それは、究極の【エクストリーム】である死に目を背けたいからなのだろうか。死に過剰な意味を持たせないってのは、個人的に好印象な描き方。

 そんなエクストリームを抱えて、日常はゆるやかに、オフビートに、笑いを抱えて過ぎて行く。エクストリームな旅は、なんでもない会話と、どこにでもあるような海岸、満室ばっかりのホテルの中、空いている普通の旅館への宿泊で構成されている。

 そして劇中最後、スキヤキが作られる。このエクストリームなスキヤキ、ぱっと見てさ、「すごく美味しそう!」には見えない。至って普通のスキヤキだ。

 でもなんだかこのスキヤキは特別。エクストリームなんだろうな。

 

 

 そういえばさ、僕もエクストリームな体験を求めて、自転車旅行なんかやっちゃったけど、人間そんなに変われないよね。変わってないかもしれないね。変わってない風を装ってるのかな。わかんねえな。

 個人的な体験と照らし合わせて、この映画、好きです。