なんかいいことおまへんか!!

健康で文化的な生活について。つまり、ダイエットと、文学と、映画。

ラケットを持つことは、初めて自分の意見を持つことなんだ

休日も休日だというのに、僕はなんで会社のメディアのための記事を一日中書いているんだろうってことに軽く絶望しちゃったんで気晴らしに文章を書き連ねることにする。 

 

最近読んだ本。パク・ミンギュの「ピンポン」久しぶりにブログに書く小説がこれだ。

シェアしたくなる小説って、読書体験なんてなかなかないんだよ。

ピンポン (エクス・リブリス)

ピンポン (エクス・リブリス)

 

 

だいたい、海外文学が好きですって言っておきながら、東アジア文学、韓国文学を読んでこなかった。いや、でもこれはすごい。パク・ミンギュ。おいちゃん、これからついていくよ。

 

この小説は、熱血青春スポコン小説ではない。同名の漫画、松本大洋が書いて、窪塚洋介が主演してたけど、決してそれとは関係ない。「I can fly」なんて出てこない。まったく異なって、絶望の暗鬱としたいじめと、集団悪を描いた文学作品だ。だけどそれを感じさせない独特の軽妙な文体。マルコムXも「あちゃー」された人類側として出てくるし、ぶっ飛び具合もハンパじゃない。

あらすじはこんな感じ。

《人類史は卓球史だ! 松田青子氏推薦! 》

世界に「あちゃー」された男子中学生「釘」と「モアイ」は卓球に熱中し、「卓球界」で人類存亡を賭けた試合に臨む…。松田青子氏推薦!

《いじめられている中学生男子が、人類の運命を決める! 》

僕は毎日、中学校でいじめられている。あだ名は「釘」。スプーン曲げができる「モアイ」もいっしょにいじめられている。僕らは原っぱのど真ん中にあった卓球台で卓球をするようになる。僕らの気持ちは軽くなる。いじめにあうってことはさ……「のけもの」じゃなくて、「なきもの」にされてるってことなんだ。みんなから? ううん、人類にだよ。僕らは卓球用品店主「セクラテン」に卓球史を伝授してもらう。卓球は戦争だったんだよ。世界はいつもジュースポイントなんだ。まだ勝負はついていないんだ、この世界は。空から、ハレー彗星ではなく、巨大なピンポン球が下降してきた。それが原っぱに着床すると大地は激震し、地球が巨大な卓球界になってしまう。そして、スキナー・ボックスで育成された「ネズミ」と「鳥」との試合の勝利者に、人類をインストールしたままにしておくのか、アンインストールするのか、選択権があるという……。
超絶独白ラリーの展開、脳内スマッシュの炸裂、変幻自在の過剰な物語。『カステラ』(第1回日本翻訳大賞受賞)で熱い支持を獲得した、韓国を代表する作家が猛打する傑作長篇! 作家自筆の挿画収録。 -amazonより引用-

 

 

主人公の中学生、「釘」は「モアイ」とともに「チス」に凄絶にいじめられている。何度も殴られて、金品を揺すられて、呼び出されて、薬を飲まされ嘔吐する。「釘」は卓球人を自称する「セクラテン」にたまらず苦悩を語り出す。

 

適応できないんです みんな結局、自分のことしかいわないし 話を聞いたらみんな間違ってないし 何でこうなんでしょう、何で、誰も間違ってないのに間違った方向へ行くんでしょう 僕がこうなっちゃったのは誰の責任でしょう 何よりも 許せないのは 60億もいる人間が 自分がなんで生きてるのか誰もわからないまま 生きてるじゃないですか それが許せないんです p110

 

こういったリズム感あふれる脳内を直接コンタクトする文体があっちこっちにあって、いやこれ相当すごいし、訳者の斎藤真理子さんも、ただものじゃないぞって何様のつもりでいってしまうくらいすごい。えらいもん見つけたって感じです。文体も、想像力も、これは今後の韓国文学会を、というか日本でも海外文学を背負って立つ作家じゃないっすかね。いやはや、だから秋の夜長は好きなんですよね。パク・ミンギュ。ラケットを持たなくなった世界・人類に向ける彼の眼差しは、いったいどんなものなんだろうか。