なんかいいことおまへんか!!

健康で文化的な生活について。つまり、ダイエットと、文学と、映画。

『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』年末年始読書2020~2021その2

有馬記念も終わり、東京大賞典も終わり、いよいよ2020年も残り1ハロンくらいになりましたね。最後の直線でのサラキアくらいの差し脚くらいのスピードを出していきたい。

 

クロノジェネシスおめでとうございます。本命だったけどサラキアがいなかった。オメガパフュームもおめでとう。

 

さて、年末年始読書も2回目です。1回目のエントリは東浩紀『ゲンロン戦記「知の観客をつくる」』でした。

 

『ゲンロン戦記「知の観客をつくる」』年末年始読書2020~2021その1 - なんかいいことおまへんか!!

 

今回読んだのは、竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』です。上質なエンタメSFでおもしろかった。

 

ギーク!バディ!人工知能スラップスティックB級映画!的なノリが展開されているので、人工知能に興味があって面白い小説を読みたいという欲求が満たされること間違いなしです。

 

 

だいたいこんな話

首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪は激減――にもかかわらず、親の借金で臓器を売られる瀬戸際だった人工知能技術者の三ノ瀬。彼は人工知能の心を読み、認識を欺く技術――Adversarial Example――をフリーランス犯罪者の五嶋に見込まれ、自動運転現金輸送車の強奪に参加するが……。人生逆転&一攫千金、ギークなふたりのサイバー・ギャングSF 

タイトル(改題)について

この本が世に出る時、タイトルの改題でネットがざわついた話も記憶されている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 

原題は『電子の泥舟に金貨を積んで』というSFの王道的なタイトルで、たとえば『天の光はすべて星』だとか、「たったひとつの冴えたやり方」とか「月は無慈悲な夜の女王」だとか、そういった海外SFの名タイトルを彷彿とさせるものでした。

 

それが、いや全然面影ないやんか!くらいに180度ひっくり返ったように出版時にこちらの『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』に改題されたわけです。

 

著者本人によって改題の衝撃と顛末について書かれていますので、興味あればそちらもどうぞ。

 

10億ゲット作者の思う『編集者は敵なのか』|竹田人造|note

 

読後の感想としては、個人的に今回の改題は正解だったんじゃないかと思っています。この軽薄な感じ、キャッチーな感じがとてもよいですし。カーチェイスやらカジノ、ポーカーなんかの舞台装置も出てくるので、軽いニュアンスの方がいいんじゃないかと。

 

そうそう、先ほどの著者noteで書かれているのだけど、この小説の作者の叫びである終盤の主張も見逃せません。

現役のエンジニアである作者の日本の機械学習人工知能の将来を憂いながらも、それでも希望を見出すという要素があるので。泥船とは一体何なんですかね、という話に繋がってきます。

 

ストーリーについて

借金背負わされて臓器を売り飛ばされそうになる主人公のAIエンジニア、三ノ瀬と映画フリークの胡散臭さ満載の犯罪コンサルタント、五嶋のバディものです。キャラクターめちゃくちゃ立っているのがよい。

 

他にも一川、六条などクセのある人物が登場します。主要人物に数字がついているの、めぞん一刻っぽさがある。

 

ストーリーは三部構成になっており、それぞれ、現金輸送車強盗、カジノ(ポーカー)、カジノ(ダイヤを盗む)が主な舞台です。

 

興味深いのはそれぞれの章のタイトルの名前。この各章のタイトルのつけ方からしても、全体のタイトルへの思いも強かったのではないでしょうか。少し見てみましょう。

 

ACTⅠ 最後の銀行強盗 Going in Style

ACTⅡ 裏切り者のサーカス Tonkotsu Takers Slave Snake

ACTⅢ 修士異常な愛情 Master's Strangelove or:How I Learned to Stop Worrying and Love AI

ポイントとしては英題ですね。

ACTⅠとACTⅢについてはパッと見てわかりましたが、ACTⅡについてはぼくはわかりませんでした。ググったらようやく出てきた。

 

元ネタは『裏切りのサーカス』で原題は『Tinker Tailor Soldier Spy』だそうです。ゲイリー・オールドマンだって!

ACTⅠは『ジーサンズ はじめての強盗』の原題ですし、ACTⅢは『博士の異常な愛情』そのままですね。

一度読み通してから各章の元ネタを見ているとなるほど、なるほど~~~!!!と思いました。小説読んでからの映画見る楽しみ方もいける、一粒で三度おいしいってやつですよ!

 

全編的に映画チックな文章のテイストなので、小説あまり読んだことないよ、という人でもすんなり入っていけるかと思います。

とはいえ、随所に頻出する人工知能関連の単語はSFならでは、といったところでしょうか。

たとえば「ディープラーニング」、「自己回帰型生成モデル」、「ウォズニアックテスト」、「ノーフリーランチ定理」、「Adversarial Example」などエンジニアならニヤリとする、しかしエンジニア以外はポカンとする言葉が満載です。

 

でも大丈夫。

 

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』を読めば、AIエンジニアもそうでない人も人工知能関連の言葉を「完全に理解した」ことが可能です。意味はググれ。

 

そうそう、主人公のAIエンジニア、三ノ瀬がこういったこういった技術を駆使して犯罪のためのトリックを組み立てたり、あるいは敵方のAI技術者とバトルする展開になっているので、なるほどそういう人工知能ってそういう使い方ができるのね~~~と思うかもしれませんが、そこはSFなので悪しからず、です。武装ドローンとか出てくるし。

 

まとめ

この小説は早川書房の第8回SFコンテストで優秀賞を受賞した作品なんですが、巻末にその選評が掲載されています。第1回で取り上げた東浩紀も評者として登場しています。なるほど、プロはこういう読み方をしているのだなあということも勉強になりますね。

 

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』はたしかにSFではありますが、現実でも人工知能で10億円ゲットする手段を開発している方がいらっしゃいますね。

具体的には競馬や競艇などの公営ギャンブルの場でよく見られています。

 

人工知能で合法的に10億円ゲットする方法について気になる方はそちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。