なんかいいことおまへんか!!

健康で文化的な生活について。つまり、ダイエットと、文学と、映画。

海外文学入門のための独断と偏見でピックアップした5冊

 最近、ぼくの周り、主にツイッター界隈なのだけど、海外文学入門だとか、海外文学はオワリだとか、にわかに騒がしい(「海外文学はオワリ」、というのは翻訳と出版の問題らしい)。ぼく自身、文学を読もう読もうと思っているのだけど、どれから手に取ればいいのか分からない。あるいはあれもこれも読みたいのが多すぎるから、選書の先達を参考にして次の本を手に取るって具合だ。ちなみに、どれから読もうっていう人は大型の書店に行くといいし、読書ブログをバッタのように飛び回るといい。

 だから、ぼくもぼくなりに入門書ってのを選書してみようと思う。選書の基準については、「僕が好きな小説」、「青春もの」「今後の期待が出来る作家」、「読みやすさ」をベースにして、二つ以上当てはまるものを選んだ。引き出しが少ないのはご容赦を。いずれまた、改訂するときがあればいいな、と思う。

 

1)怪物はささやく

 

怪物はささやく

怪物はささやく

 

ある夜、怪物が少年とその母親の住む家に現われた―それはイチイの木の姿をしていた。「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」嘘と真実を同時に信じた少年は、なぜ怪物に物語を話さなければならなかったのか…。 

 

 

 命の物語、そして物語の物語。児童文学(ヤングアダルト)にカテゴライズされ、中学生の読書感想文の課題図書に指定されるような一冊。挿絵もあり、読みやすい。が、あなどってはならない。この物語と対峙する少年と同様に、ぼくらもまた、怪物と、そしてこの物語に対峙しなけばならない。読んで!泣け!!!

 

*著者のパトリック・ネスはあへあへツイッターおじさん。それを眺めるのも面白い。(@Patrick_Ness)ちなみに本作は映画化予定。

 

2)ムーン・パレス

 

ムーン・パレス (新潮文庫)

ムーン・パレス (新潮文庫)

 

 

人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた……。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。
 

 

 現代アメリカ文学の重要作家、ポール・オースター。読書ブログのあらゆるところで紹介されてるし、今更ぼくが…という感じだけど、好きだから!しょうがない!!逆に言えば、押さえておくべき定番なのかもしれない。もしあなたが、サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を読んでいるのならば、その対になる本書も読んだ方がいい。ホールデンくんが大人の欺瞞や社会に否定し、自分を否定する一方、今作の主人公マーコはそれも含めて、自分と向き合う。翻訳の柴田元幸先生の仕事が光る一冊。

それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。 

 この書き出し、ベストじゃないですか?

 

3)オスカー・ワオの短く凄まじい人生

 

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

 

 

オスカーはファンタジー小説ロールプレイング・ゲームに夢中のオタク青年。心優しいロマンチストだが、女の子にはまったくモテない。不甲斐ない息子の行く末を心配した母親は彼を祖国ドミニカへ送り込み、彼は自分の一族が「フク」と呼ばれるカリブの呪いに囚われていることを知る。独裁者トルヒーヨの政権下で虐殺された祖父、禁じられた恋によって国を追われた母、母との確執から家をとびだした姉。それぞれにフクをめぐる物語があった―。英語とスペイン語、マジックリアリズムとオタク文化が激突する、全く新しいアメリカ文学の声。ピュリツァー賞、全米批評家協会賞をダブル受賞、英米で100万部のベストセラーとなった傑作長篇。 

 

  作者のジュノ・ディアスはドミニカ生まれ、アメリカ育ち。彼が描き出す物語を読むことは今後のアメリカ文学を眺める意味でも超重要。さて、本書。サブカルチャー&ドミニカ生まれ、オタクなやつはだいたい友達、なオスカー・ワオ。彼は童貞を捨てることができるのか!?彼はマーブルなヒーローになれるのか!?スペイン語、英語、サブカルチャーマジックリアリズムポリフォニーで描かれるセカイブンガクを要チェックや!!

 

 

 

 

 

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

 

 

一九七六年五月。八月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニールにとっての、長く切ない夏が始まった…。プロの探偵に稼業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する。個性きらめく新鮮な探偵物語、ここに開幕。

 

 ハードボイルド・探偵ものについてはチャンドラー含め、枚挙にいとまがない。ってところでライトな探偵青春物語をピックアップした。主人公ニール・ケアリーのナイーブで斜に構えた語り口 is so cute!全5作から成る私立探偵ニール・ケアリーシリーズの中でも一番じゃないか?と思えるほど。だけど軒並み高評価なんだぜ!装丁も俺好みのもの。本棚に加えておきたいシリーズだ!ついでに言うと、このミス09年度1位の『犬の力』もアメリカ/メキシコ麻薬戦争の壮大なサーガを描き切った力作。軽妙洒脱で華麗な文章は、翻訳を担当した東江一紀氏の力によるものだろう。惜しむらくは、本年6月に東江氏が故人になったことだろうか。早すぎるぜ、まったく…

 

5)ハックルベリー・フィンの冒険

 

ハックルベリイ・フィンの冒険 (新潮文庫)

ハックルベリイ・フィンの冒険 (新潮文庫)

 

 

トムとの冒険で大金持になった浮浪児ハックは、未亡人の家に引きとられて教育を受けることになった。固苦しい束縛の毎日――飲んだくれの父親が金をせびりに現われるに及んで、逃亡奴隷の黒人ジムとハックの脱出行が始まった。筏でミシシッピー川を下る二人を待ち受けるのは、大暴風雨、死体を載せた難破船、詐欺師たち……。現代アメリカ文学の源泉とまで言われる作品。 

 

 古典の時間だぁぁぁあああああああああ!!!!!!!アメリカ文学の源泉にして入門にはうってつけの一冊!!アメリカ文学のエッセンスがすべて詰まっている!そして!最高の!冒険小説なのだ!!ヘミングウェイだってこう言ってるぜ!!

 

あらゆる現代アメリカ文学は、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊に由来する。……すべてのアメリカの作家が、この作品に由来する。この作品以前に、アメリカ文学とアメリカの作家は存在しなかった。この作品以降に、これに匹敵する作品は存在しない。 

 

 宗教や人種差別、多様性…現代の諸問題を切り取るための処方箋がここには書かれている。そして、それを覆い隠す圧倒的な面白さ!古典だからってバカにすんじゃねえぞ!最高だ!なんてったってこの俺が最高だって言ってるんだからな!ついでに役者の村岡花子は、『花子とアン』の村岡花子だ!朝ドラ見て感動したならついでに彼女の仕事っぷりも見るがいい!

 

 

番外編:映画『スモーク』

 

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人気作家ポール・オースターが、自身の短編を脚色。監督は香港出身のウェイン・ワン。NYの下町ブルックリンを舞台にした群像ドラマだ。本作の魅力は、ブルックリンの街に限りなくなじんでいる俳優たちだろう。10年以上もの間、毎日、同じ場所にカメラを向けるタバコ屋の店主にハーヴェイ・カイテル。店の常連客で、店主の写真のなかに亡き妻の姿を見つける作家、ウィリアム・ハート。そこにもうひとり、作家を交通事故から助け、父親を探す黒人少年。映画が進むにつれ、3人それぞれの家族関係が浮き彫りにされていく。
ドラマチックな展開が用意されているわけではなく淡々と進む物語だが、その分、要所でドキリとさせる一瞬が訪れる。たとえば、凍死した父を発見する息子が、すでにそこで眠る父の年齢を越えていたというエピソード。また、強気を貫いてきた娘が、両親に背を向けられたときに浮かべる悲痛な表情。そんな心に引っ掛かる映像の数々が、じわじわと感動を高め、締めくくりは、すべての人を優しく包み込むような「いい話」。上質な文学作品の香りが漂う、逸品だ。(斉藤博昭)

 

 2)で紹介した『ムーン・パレス』の著者、ポール・オースターが原作及び脚本を務めた本作。そして小説家ポール・オースターのエッセンスが凝縮した珠玉の逸品。クリスマスまでに見るんだ。保証は俺がするから早くTSUTAYAへ行くんだ!オースターの著作には偶然や運命、不条理を題材にした作品が多い。その偶然や運命は、本当に些細なことから転がり始めるものだ。だからこそなのか、鑑賞後に不思議な余韻を残してくれる。

 

まとめ

 

 今回の選書、どうやら海外文学というよりは、アメリカ文学主体になってしまった。これは僕の反省点で、次回は他の国の作家もピックアップしたい。加えて、SF文学が漏れてしまっている。SFについては、それだけで特集出来そうな気がするから気が向いたら次回に。

 最後に。海外文学を手に取る時には、だいたい翻訳となるわけだけど、そうなると翻訳者で選ぶのも面白いかもしれない。やはり入門となると柴田元幸先生ですかね。